知能の未来〜その後のジェフ・ホーキンス
こんにちは、人工知能愛好家ポンダッドです。
前々回、前回と『考える脳考えるコンピューター』(ジェフ・ホーキンス著)で書かれている理論をまとめました。
非常に納得できる理論でありますが、どうしても気になるのは「本当に実現できるのだろうか?」というものです。
ニュースサイトなどで取り上げられることもなく、その後の活動は一見すると秘密のベールに包まれているように感じます。
そこで執筆後のホーキンスの足取りをたどってみました。一緒に見てみましょう。
年表
年代 | 出来事 |
---|---|
2004年 | 『考える脳考えるコンピューター』出版 |
2005年 | ヌメンタ(Numenta)社設立 |
第一世代アルゴリズム:zeta1公開 | |
2010年 | 『階層的一時記憶(第2版)』論文発表 |
第二世代アルゴリズム:Cortical Learning Algorithms公開 | |
2013年 | オープンソースプラットフォーム:NuPIC公開 |
2014年 | 第三世代アルゴリズム:(仮称)Sensory-Motor Integration開発開始 |
2018年 | 『格子細胞(グリッドセル)』論文発表 |
2019年 | 『千の脳理論』公開 |
歴史
2005年〜
引用: HTM Minute: 2 Minute History of HTM (by Matt Taylor) - YouTube
2005年3月、ホーキンスは、ヌメンタ(Numenta)社を設立し、理論の構築からシステムの構築へと研究内容を発展させます。※1
構築したシステムは階層的一時記憶(HTM/Hierarchical temporal memory)と名付けられ、プロトタイプとなる第一世代アルゴリズム「zeta1」が公開されました。※2
2010年〜
引用: HTM Minute: 2 Minute History of HTM (by Matt Taylor) - YouTube
2010年には、HTMを進化させた論文を発表します。
第2世代となったアルゴリズムは皮質学習アルゴリズム(CLA/Cortical Learning Algorithms)と名づけられます。
これは、新皮質層のうち、第2/3層および第5層にある錐体細胞のはたらきに着想を得たものです。
入力データをバイナリで表現し、ヘッブの法則に沿ってシナプスが学習します。これらは、空間パターンと時系列を内在した記憶を、オンラインで学習します。
論文は、NumentaのHPからダウンロードして読むことができます。
Hierarchical Temporal Memory (HTM) Whitepaper
2013年〜
引用: HTM Minute: 2 Minute History of HTM (by Matt Taylor) - YouTube
2013年には、HTM第2世代アルゴリズムを利用できる、オープンソースプラットフォーム NuPIC/Numenta Platform for Intelligent Computing を公開します。※3
コア部はC ++で書かれていますが、APIによりPython、JAVA 、JavaScriptなど様々な言語で利用することができます。
これらはGitHubで公開されています。
引用: HTM Minute: 2 Minute History of HTM (by Matt Taylor) - YouTube
コア部のライセンスはAGPL Version 3(商用利用可、ソフトウェア改変可)であり、制約を受けることなく使えます。
そのため、開発イベントやフォーラムなどが活発におこなわれているようです。
2014年〜
引用: HTM Minute: 2 Minute History of HTM (by Matt Taylor) - YouTube
2014年のノーベル賞生理学・医学賞は、脳科学分野の研究者3名へ贈られました。研究内容は『場所細胞(Place cell)と格子細胞(Grid cell/グリッドセル)の発見』です。※4
その概要は「嗅内皮質にある格子細胞(グリッドセル)は、自分がいる場所の位置情報を伝えている」というものです。これは、HTM理論に大きな影響を与えることになります。
ホーキンスは、この研究を発展させ「新皮質は物体を3次元で知覚している」という仮説をたてます。
勘のよい方はお気づきかと思いますが、マウントキャッスルの発見により「新皮質のすべての部分は共通の原理で機能する」と考えられます。
これは、物理的な物体に使用するのと同じ神経メカニズムを使い、抽象的な概念を操作していることを示唆しています。概念の操作は、知能の中心機能がおこないます。
The Secret to Strong AI(Medium) のGoogle翻訳を引用
つまり、「知能は抽象的な概念を3次元で操作している」という仮説がたてられます。
2014年からはHTMの第3世代アルゴリズム(仮称)Sensory-Motor Integrationの開発をはじめます。第2世代では組み入れていなかった、新皮質第5層にある細胞の出力をシステムに取り入れました。※5
2018年には「格子細胞(グリッドセル)により、人間は物体を3次元で知覚している」仮説をまとめ、論文で公開しました。※6
そして2019年、格子細胞(グリッドセル)の機能をHTM理論に統合した『千の脳理論』を発表しました。 ※7
2020年
引用: Numenta 2020: The Year in Review, The Decade Ahead - YouTube
ホーキンスは2019年、一般向け書籍の執筆に多くの時間を費やしたそうです。※8
生物学的な知能、機械的な知能、両方の原理をとりまとめた、40年にわたる研究の集大成になることが予想されます。
2020年には出版できるよう鋭意執筆中とのことです。
まとめ
「脳のリバース・エンジニアリング」と聞くと、大友克洋先生のAKRAの一場面が頭をよぎるのですが(塩水を詰めた細いガラス管を脳に差し込んでるやつ)、そんなことはなく、非常にオープンな環境で開発されていることがわかり安心しました。
気になるのは、第三世代アルゴリズムのプラットフォームへの実装です。『考える脳考えるコンピューター』の翌年に実装のプロトタイプが公開されたことから想像すると、来年2021年には実装されるのではないかと予想します。
さて、来週はいよいよ機械知能の秘密を探るため、電脳世界へダイブします。次回「『階層的一時記憶』を紐解く」おたのしみに!
引用
※1 Jeff Hawkins(wikipediaをGoogle日本語翻訳)
※2 Hierarchical Temporal Memory (wikipediaをGoogle日本語翻訳)
※3 Implementations (NumentaをGoogle日本語翻訳)
※4 Place cell(場所細胞)とGrid cell(格子細胞)2014年ノーベル生理学・医学賞を解説する (RIKEN BSI)
※5 Sensory-Motor Integration in HTM Theory (NumentaをGoogle日本語翻訳)
※6 Companion paper to A Framework for Intelligence and Cortical Function Based on Grid Cells in the Neocortex(NumentaをGoogle日本語翻訳)
※7 The Thousand Brains Theory of Intelligence(NumentaをGoogle日本語翻訳)
※8 Numenta 2020: The Year in Review, The Decade Ahead(YouTubeにて字幕を自動翻訳)